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完新世中期に宇宙線大増加の痕跡を発見 -太陽活動の異常を示唆- 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

・ 米国産木材(bristlecone pine)サンプルを用いて紀元前5490年-紀元前5411年 の炭素14濃度を測定し、紀元前5481年-紀元前5471年にかけての10年間に20‰ の炭素14濃度増加を検出(紀元前5480年イベント)

・ 今回検出した炭素14 濃度増加は今までに知られている変動と比べると最大級であ り、他の年代とは大きく異なる特徴を持つ

・ 炭素14 濃度が増加している期間に、地球への到来宇宙線量が大幅に増加したこと を意味する

・ 紀元前5480年イベントの原因は、極端に太陽磁場活動が弱まった状態か、複数の 巨大SPE(Solar Proton Event:太陽面爆発に起因して大量の陽子が地球に降り注 ぐ現象)が連続で起きたことが考えられる

名古屋大学高等研究院(研究院長:篠原 久典)・宇宙地球環境研究所(所長: 町田 忍)の三宅 芙沙(みやけ ふさ)特任助教、同宇宙地球環境研究所の増田 公 明(ますだ きみあき)准教授および中村 俊夫(なかむら としお)名誉教授の研 究グループは、アリゾナ大学、スイス連邦工科大学チューリッヒ校との共同研究 により、紀元前5480 年頃の地球上において、放射性炭素(炭素 14)濃度が急増 していることを発見しました。

過去の宇宙線強度や太陽活動は、樹木年輪に含まれる炭素14濃度を用いて調べ られますが、完新世(約1万年前から現在)においては、10年分解能以下の細か い変動についてほとんど調べられていませんでした。今回米国産の樹木サンプル を用いて紀元前5480年付近の炭素14濃度を詳細に調査したところ、完新世最大 クラスの炭素14濃度増加を検出しました。太陽黒点がほとんど消失したとされる マウンダー極小期のような太陽活動極小期にも、炭素14濃度の大幅な増加が見ら れます。しかし、今回見つかったイベントの原因は、通常の太陽活動極小期より もさらに太陽活動が弱まっていた状態であったか、あるいは大規模な太陽面爆発 が数年にわたって発生した状態と考えられます。いずれにおいても、完新世中期 における太陽活動の異常が示唆されます。

こ の 研 究 成 果 は 、 平 成 29118 日 ( 米 国 東 部 時 間 ) の 米 国 科 学 雑 誌

「Proceedings of the National Academy of Sciences」電子版に掲載されました。 この研究は、日本学術振興会 (研究活動スタート支援、若手研究A、頭脳循環 を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム)及び、公益財団法人豊 秋奨学会の支援のもとに行われたものです。

完新世中期に宇宙線大増加の痕跡を発見

-太陽活動の異常を示唆-

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【研究背景と内容】

自然界の炭素14は地球外から飛来する宇宙線によって大気中で作られ光合成により 樹木年輪へ取り込まれるため、樹木年輪の炭素14濃度から過去の宇宙線強度を調べる ことができます。また、地球へ飛来する宇宙線強度は太陽磁場による影響を受けるため

(太陽磁場が強くなると地球への宇宙線量は減少する)、年輪の炭素14濃度から過去の 太陽活動も知ることができます。

これまでに、私たちの研究グループでは、屋久杉の炭素14 濃度を測定し西暦774‐ 775年と993994年の単年宇宙線イベントを発見しました(Miyake et al. 2012,2013 これらのイベントは大量の宇宙線が 1 年以下の短い期間に地球に降り注いだことを意 味しており、原因は太陽面爆発による大規模なSPE(Solar Proton Eventと考えられ ています。過去を遡ると1万年を超える木材試料から測定された10年分解能の炭素14 データはありますが(IntCal: Reimer et al. 20131年分解能のデータはほとんどな く、短期間の宇宙線変動は上に挙げた2つのイベントを含む短い期間しか解明されてい ませんでした。

本研究では、さらに急激な炭素14濃度変動を調べるために、米国産の樹木サンプル

(図 1)を用いた単年測定を行いました。対象にした年代は、先行研究の IntCal デー タにおいて完新世(過去~12000年)で最大級の増加の傾きを示す紀元前5490‐紀元 前5460年を含む紀元前5490年-紀元前5411年です。測定の結果、IntCal に見られ た傾きの大きい変動は、1年分解能ではさらに急激な変化(紀元前5481年-紀元前5471 年にかけて20‰の炭素14濃度上昇)であることが明らかになりました(以後、紀元前 5480年イベント)。測定は3つの研究機関(アリゾナ大学、名古屋大学、スイス連邦工 科大学チューリッヒ校)の加速器質量分析装置を用いて行い、再現性のある結果が得ら れました。図2は、紀元前5480年イベントと西暦775年イベントとを比較したグラフ ですが、紀元前5480年イベントは西暦775年イベントのような1年での増加ではない ものの、全増加量は西暦775年イベントを上回るとても大きなものです。

太陽活動極小期として良く知られているマウンダー極小期(17世紀後半~18世紀初 頭)には、黒点がほとんど出現しない日が続いたと記録されており、太陽活動が弱まっ ていたことから地球の気候も寒冷化したと考えられています。過去を遡るとマウンダー 極小期のような太陽活動極小期が多く存在することが知られ、これらの期間には炭素 14濃度が大きく増加しています。図3は、紀元前5480年イベントと5 つの太陽活動 極小期の炭素14 濃度変動を比較したものですが、紀元前5480年イベントの増加の傾 きが2‰/年)であるのに対し、他の太陽活動極小期は約0.3‰/年)であり、通常の 太陽活動極小期とは異なり圧倒的に早く炭素14濃度が上昇していることがわかります。

このような急激な炭素14濃度上昇を引き起こす原因として、次の2つが考えられま す:(1)通常の太陽活動極小期よりさらに太陽活動が低下していた状態、(2)西暦775年 イベントの原因と考えられている巨大な太陽面爆発が数年にわたって複数発生した状 態。いずれの原因であっても、これまでに知られていない太陽活動が起きていたことを 示しています。

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図1:分析に用いた米国カリフォルニア州産の木材試料。Bristlecone pineと呼ばれる 樹種である。アリゾナ大学年輪研究所に保管されていた。

図2:紀元前 5480 年イベント(黒)と西暦 775 年宇宙線イベントとの比較。紀元前 5480年イベントは1年での増加ではないが、炭素14濃度の全増加は西暦775年 イベントよりも大きい。

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図3:紀元前5480年イベント(黒)と5つの太陽活動極小期(マウンダー、シュペー ラー、オールト、7 世紀、紀元前4世紀の極小期)との比較。通常の太陽活動極 小期よりも急激に炭素14濃度が増加している。

【論文名】

掲載雑誌:Proceedings of the National Academy of Sciences

論文名:A large 14C excursion in 5480 BC indicates an abnormal sun in the Mid Holocene

(紀元前5480年の炭素14大増加-完新世中期における太陽の異常)

著 者 :Fusa Miyake, A.J. Timothy Jull, Irina P. Panyushkina, Lukas Wacker, Matthew Salzer, Christopher H. Baisan, Todd Lange, Richard Cruz, Kimiaki Masuda, and Toshio Nakamura

DOI : 10.1073/pnas.1613144114

参照

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